知らなくても別に困らないけれど、知るとちょっと「ことば」についての興味が湧く。
そんな「ことばのトリビア」を不定期にお届け。今回は、誰もが学校で習った「ローマ字」のお話から。
目次
日本のローマ字は3種類ある?
突然ですが、「一番星(いちばんぼし)」とローマ字で書くとき、皆さんはどのように書きますか?
ざっくり言うと、
・itibanbosi と書くのが「訓令(くんれい)式」
・ichibamboshi と書くのが「一般的なヘボン式」
という感じです。
日本の小学校では、3年生から国語の時間でローマ字を習いますが、実は訓令式とヘボン式、どちらを教えるかについては、特に決まりがないようです。また訓令式は表記法が細かく定まっていますが、ヘボン式は「色々な書き方」が存在しており…結構「いい加減」です(^ ^;
さらには、「英語の時間に習うローマ字」というものがあります。便宜的に「英語式」などと呼ぶようですが、ざっくり言うと「外国人が日本語を聞き書きしたら、こう書くだろう」という感じの表記で…
例を挙げると
・Tokyo / honya(本屋)/ uchu(宇宙):英語式
・Tôkyô / hon’ya / utyû:訓令式
・Tōkyō /hon-ya / uchū:ヘボン式
のように、なるべく「余計な記号」を使わないように書くのが英語式、と言えるかと。
「よく見るローマ字」は、3種類が混じったもの?
学校教育でも「色々なローマ字」を習うことからも分かるように、実は日本ではローマ字の表記に厳密な決まりはありません。鉄道の駅名表示や、町中の地図、新聞・雑誌など、我々が日頃よく目にするローマ字表記は、上記3種類が程よく混じった感じのものが多く…と言うより、はっきり言ってバラバラです(^ ^;
例えば「東京駅」。JR東日本の英語版サイトでは、「Tokyo」となっていますが…
ホームにある駅名表示板は「Tōkyō」とヘボン式表示。
ただ、同じ「東京駅」でも、地下鉄(東京メトロ)は「Tokyo」表記。
実は気になって、東京駅まで調べに行きましたが(^ ^;
どうやらJR東日本内では「ヘボン式 = Tōkyō」表記が一般的で、それ以外では「英語式 = Tokyo」がほとんどのようです。東京駅で配っているパンフレットとか、みんな「Tokyo」になってます。
JRはあくまでヘボン式にこだわる?
取材する中で、ちょっと面白いなと思ったのは「JRは『固有名詞』もJR風にヘボン式で表記したがる」ようだ、ということ(^ ^
例えば百貨店の大丸東京や、シャングリラホテル東京などは、公式サイトではどちらも「Tokyo」表記です。
ところが、JR構内の案内板ではヘボン式表記に(^ ^;
大丸さんの方は全部大文字だったり…何と言うか、強い「こだわり」があるような(^ ^;
ちょっと歴史とか調べてみると、かなりの「大ネタ」になってしまうようなので(^ ^; 実は今回の趣旨はそこではなく(^ ^;
今回のテーマは…
ヘボン式の「ヘボン」って何だろう?
多くの方が、何となく想像ついているのではないかと思いますが…これは「ヘボンさん」という人名から来ています。明治学院大学の創設者でもあるジェームス・カーティス・ヘボンというアメリカ人が、「和英語林集成」という和英辞典を編纂したときに使った「日本語を表す表記法」が、ヘボン式の始まりです。
で、このヘボンさんの名前を「英語表記」すると、James Curtis Hepburnとなるのですが…この苗字の”Hepburn”は、有名な女優オードリー・ヘップバーン(Audrey Hepburn)と同じなんです。「ヘボン」の方が、より元の発音に忠実な書き方と言われていますが…それにしても、だいぶ印象が違いますよね?
実は、日本でよく見る「外来語」は、元は同じなのに違う言い方(書き方)が浸透している、というものが結構あります。
例えば「モールス信号」も、英語で書くと”Morse code”で、これも人名から来ていますが…この「モールス」も、大森貝塚を発掘したモース博士(Edward Sylvester Morse)と同じ名前で、さらにロックギタリストのSteve Morseは「スティーブ・モーズ」と、最後の「ス」に濁点を付けて書くのが一般的です。
ちなみに、宝石の硬さを表す「モース硬度表」のモースは、ドイツ人の「Mohs」さんから来ているので、別物です(^ ^;
あ、これ英語じゃなかったの?
日本で一般的な呼び名が「英語読み」とは違う、というケースもたくさんあります。
例えばファッションブランドの「agnès b」は、日本ではフランス語読みで「アニエス・ベー」が一般的ですが、アメリカ人はスペル通りに「アグネス・ビー」と呼びます。「エルメス(Hermes)」も、そのまま「ハーミィ」みたいに発音するし、ベンツの「メルセデス(Mercedes)」は「マーシーディース」みたいになるので、だいぶ印象が違います。
また日本語には、英語以外がルーツの外来語がたくさんあります。「ビロード」はポルトガル語だし、「ノルマ」はロシア語、「オルゴール」はオランダ語由来です。これらの言葉を、英語で会話しているときにうっかり使うと、基本的には通じません。
「外来語」=英語ではないので、注意が必要です。
ちなみに英語では、
・ビロード:velvet
・ノルマ:(全く同じ意味の単語が見つからず)quota(割当て)とか
・オルゴール:music box
という感じです。
聖書の「ありがたみ」が薄くなる?
日本人が英語で聞くと違和感を覚える最たるものは、実は聖書関連ではないか、と密かに思っています。特に統計資料があるわけではなく、あくまで個人的な印象ですが…(^ ^;
普通に日本語で出回っている聖書の、特に人名は、聖パウロとか、ヨハネとか、ペテロとか、ラテン語がルーツになっている読みが一般的かと思います。ところがこれが英語になると、
・パウロ:ポール
・ヨハネ:ジョン
・ペテロ:ピーター
…となって、急に「その辺に良くいる人」に思えて…来ませんか?
「マルコ」はマーク、「マタイ」はマシュー、「ヤコブ」はジェイコブ… 何と言うか「ありがたみ」が薄くなるような…あくまで個人の感想ですが。
「神道」以外の宗教周りは外来語がとても多いので、これも調べてみると面白いと思います。
例えば、もうすっかり日本語になってる「お盆」も、正式には「盂蘭盆会(うらぼんえ)」と言い、サンスクリット語の「ウラバンナ」の音訳と言われています。ちなみに意味は、なんと「逆さ吊り」!!
同様に「僧」も「卒塔婆」も「旦那」も元はサンスクリット語で、「だらしない」という時の「だらし」も、元は「シーダラー」というサンスクリット語と言われています。意味は「秩序」で、日本人の苗字にある「設楽(したら)」さんも同じ語源だとか。さらにシーダラーは「スーダラ—」とも言い、そうすると植木等さんの「スーダラ節」というのは、実は深い意味が…
キリがありませんが(^ ^;
でも、身近な言葉も、いろいろ調べてみると意外なことが見えてきたりして、興味深いのでお勧めです(^ ^
例えば「外来語」にしても、日本に伝わってきた時代によって、中国語が多かったり、オランダ語が多かったり、ドイツ語だったり… また中国語でも、時代によって「呉音※1」「漢音※2」など、どの時代に日本に来たかによって読みが違ったり…興味を持つと、止まらなくなります!
※1「重要(じゅうよう)」のように、「重」を「じゅう」と読むのが呉音。時代は古い。
※2「貴重(きちょう)」のように、「重」を「ちょう」と読むのが漢音。時代は新しい。
せっかくなので英語に限らず、ぜひ色々な言葉に興味を持って、調べてみてください!(^o^
APPENDIX(おまけ)
最後の最後に(^ ^;
「人の名前」をローマ字で書くとき、多くの方は「Taro Yamada」のように「名 – 姓」の順番で書く、と習ったと思います。ところがこれ、変わりつつあります。
日本では、「公式文書で人名をローマ字で表記する場合は、姓 – 名の順にする」と、令和元年に政策会議で決まりました。上の例だと「Yamada Taro」となるわけです。
「公用文等における日本人の姓名のローマ字表記について」
MLSでは、今のところ「Taro Yamada」の、名 – 姓 表記で指導していますが… 世の中の流れによっては、将来的に変えていくかも知れません。