知らなくても別に困らないけれど、知るとちょっと「ことば」についての興味が湧く…
そんな「ことばのトリビア」を、不定期にお届けしていきたいと思います。
第一回目の今回は、「お湯」という言葉について取り上げます
目次
ヨーロッパのお湯は「熱い水」
皆さん、「お湯」を英語で何と言うかご存じですか? そう、”hot water”ですね。
ただこれ、直訳すると「熱い水」。形容詞+名詞なので、単語ではなく「句」となってしまいます。
(中学・高校で習った「語と句と節」、覚えてますか?)
実は、英語以外の多くの言語で、一語で「お湯」を表す単語が見当たりません。
フランス語:eau chaude(eau=水、chaude=熱い)
ドイツ語:heißes wasser(heißes=熱い、wasser=水)
イタリア語:acqua calda(acqua=水、calda=熱い)
スペイン語:agua caliente(agua=水、caliente=熱い)
…などなど。
ヨーロッパ系の言語は、多くがラテン語をベースにしているので、同じような感じになるのでしょうが…
ちなみに、上の説明では「熱い」という字を使いましたが、chaudeもcaldaも英語の”hot”と同じように、「(気温が)暑い」という時にも使います。
例えばスペイン語で”Estos dias muy caliente.”と言うと、「ここ数日、とても暑いですね〜」みたいな意味になります。
他の言語も見てみましょう
ロシア語:Горячая вода(Горячая=熱い、вода=水)
トルコ語:sıcak su(sıcak=熱い、su=水)
ベトナム語:nước nóng(nước=水、nóng=熱い)
韓国語:뜨거운 물(뜨거운=熱い、물=水)
…キリが無いですが、みんな「一語」ではなく、「熱い水」というフレーズ(句)なのがお分かりいただけると思います。
ちなみに、試しにアラビア語とかウルドゥ語とかも調べてみましたが、文字が特殊すぎてうまく表示できませんでした(^ ^;
ご興味のある方は、「エキサイト翻訳」で手軽に色々な国の言葉を調べられますので、ぜひ試してみてください。
https://www.excite.co.jp/world/
「開く」水とは?
ちょっと面白いのは中国語。
中国語(簡体):开水 / (繁体):開水
开は開と同じ意味の簡体字で、直訳すると…「開く水」?(^ ^;
「開けてる水」だと、海とか大河とかのイメージですが…
実は中国語の「開」という文字にはいくつも意味があり、その中に「沸く」という意味もあるそうです。
ですので、「沸いた水=boiled water」で、英語と同じような感じになります。
ちなみに中国語で「湯」とは「スープ」の意味です。
「お湯」という言葉があるのは、日本が火山国だから?
日本では、昔から「気前よく」「惜しげなく」浪費するさまを、よく「湯水のごとく」と表現します。
これは、日本が水に恵まれた国であり、また火山国で「地面を掘れば温泉が出る」ほど「お湯」も身近にあったから、と言われています。
でも、本当にそうでしょうか?
確かに日本は、国土の面積は地球上の全陸地の0.25%しかありませんが、世界中の活火山の7%は日本にあるという「火山国」です。
「面積ランキング」だと60位くらいなのに、活火山の数は世界第4位!!
確かに「地面を掘れば温泉が出る」イメージ(^ ^;
でも実は日本以外にも、温泉が身近な国はたくさんあります。
イタリア、トルコ、台湾、ハンガリー、アイスランド等々… イングランドには、その名も「Bath(バース)」という温泉地もあるくらい。
そう言えば英語でも「風呂」はbathだし、「温泉」はspaだし、ちゃんと単語があります。
存在として身近ではあるようですね(^ ^
逆に、日本で身近であるはずの「温泉」は、字のごとく「温かい泉」と表記します。
なぜ「湯」だけは一語で表すのでしょうか…
「風呂」「温泉」あたりにヒントがあるかも?
実は「日本語にはなぜ湯という単語があるか」は、まだ結論が出ておりません(^ ^;
調べても、特に「定説」には行き当たりませんでした。
ただ、今うっすらと思っているのは、お湯の「利用の仕方」の問題なのかな、ということ。
日本には「湯治」という言葉があります。温泉で病気を治す・治療する…という意味ですが、実は明治初期くらいまで、今で言う「風呂※」のことを、単に「湯」と呼んでいました。
江戸前の古典落語などを聞くと、「湯へへぇって(入って)来る」「お湯屋さん(銭湯)」などという言い回しがよく出てきます。
※江戸時代に「風呂」と言う時は、蒸し風呂のようなものを指すようです
もしかすると、日本で「湯」と言う場合、ただの「熱い水」ではなく、治療とか薬効とか、そういう意識も絡んでくるのでは…と、私は考えています。
そう言えば、漢方薬の世界では「葛根湯」とか「小柴胡湯」とか、「湯」の字がよく出て来ます。
「お湯に溶かして飲む」ので、広い意味では「スープ」の仲間なのかも知れませんが…
「医食同源」の中国の言葉、きっとその辺にヒントが…?(^ ^;
日本にはglacierが無いので
最後に、「ことば」と「身近さ」の関係をもう一つ。
英語の”glacier”という言葉、日本語では「氷河」の意味ですが、これはヨーロッパ系の言語では、みな一語で表されます。
それを日本語だと「氷河」だし、中国語でも「冰川」と書きます。
どちらも「氷の河(川)」。
これは、昔から日本には氷河が無い※ので、19世紀に「訳語」として使われ始めたから、と言われています。
※実際には、2012年以降は「日本にも氷河がある」と学術的に認められています。
日本語では、身近なものの多くを「一語」「漢字一文字」で表せます。
雨、土、星、空、山、川、草、木、花、人…などなど。
反対に、漢字二文字以上で表すものは、「訳語」が多いと言われています。
さらに、漢字一文字の言葉は、音にすると二音のもの(あめ、つち、ほし、そら…)が多く、「魚」は「さかな」では? と思うと、元々は「うを(うお)」と呼ばれていたのが、酒のつまみに食べることが多いから「酒菜(さかな)」と言われるようになり…
キリがありませんが(^ ^;
でも、身近な言葉も、いろいろ調べてみると意外なことが見えてきたりして、興味深いのでお勧めです。
せっかくなら英語以外の言葉も調べてみると、英語との意外な共通点などが見つかったりして、お楽しみいただけるかと思います。
特にフランス語やスペイン語などヨーロッパ系の言語は、英語が分かる人には「学びやすい」言葉だと思います。ぜひ色々な言葉に興味を持って、調べてみてください!(^o^
APPENDIX(おまけ)
最後の最後に(^ ^;
我々はよく「お湯を沸かす」と、日常的に言うと思いますが…
実はこれは間違いである、という説もあります。
曰く「水を湧かしたものがお湯であって、お湯はもう『沸いた後の状態』だ」とのことですが…(^ ^;