知らなくても別に困らないけれど、知るとちょっと「ことば」についての興味が湧く、
そんな「ことばのトリビア」を、不定期にお届け。
今回は、尾籠な話で恐縮ですが、「トイレ」に関するお話です。
目次
トイレを表す日本語、いくつ分かりますか?
いつもながら突然ですが、日本語で「トイレ」を表す単語を、いくつ思い付きますか?
ごく一般的なところだと、
・トイレ
・(お)便所
・(お)手洗い
・洗面所
・化粧室
という感じでしょうか。
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・厠(かわや)
・ご不浄
・はばかり
・手水(ちょうず
なども馴染みがあるのでは。
・雪隠(せっちん)
などは、もはや落語などでしか耳にしませんが、
将棋の攻め手で「雪隠詰め」のような複合語として生きていますね。
他にも
・東司(とうす / 登司とも)
・後架(こうか / 「ごか」とも)
などという言い方があります。これはお寺でトイレを指す言葉。
詳しく言うと、曹洞宗では「東司」と呼び、臨済宗では「雪隠」と呼ぶとか。
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これが現存する中で最大最古のものだとか。
ちなみにこの東司は、現在も使用されているそうです。
また禅僧にとっては、トイレに行くことも大切な修行の一環で、
私語は厳禁、東司に入るときの所作や終わった後の手の洗い方などまで
細かい決まりがあるとか。
お腹痛い時とか大変そうですが…(^ ^;
– 閑話休題 –
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・閑所(かんじょ / 閑処とも)
・隠所(いんじょ)
などとも言い、これは「静かな場所」「独りになれる場所」というところから、
トイレを指すようになったとのことです。
また
・大壷
という言い方もあり、元々は「便器」を指していたのが、
トイレ全体を意味する言葉になったようです。
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百貨店やレストランなどの客商売で、店員同士で使う
隠語・符牒としての言い方も色々あり、
・四番
・突き当たり
・遠方
・二の字
などなど、お店によって異なるようですが…
いずれにせよ、お客さまのいる前で、
店員同士が「トイレ行ってくる」とか話すのも何だし…
ということで「四番失礼します」というような言い回しが生まれたとか。
さらに特殊な例として、昔の天皇家とその周辺では
「御東所(ごとうしょ)」とか、「よそよそ」などという言い方もあるとか。
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なぜ「トイレ」を表す言葉はこんなにたくさんあるのか
いかがでしょうか。いくつご存じでしたか?
一つのものに対して、これほどたくさんの「呼び名」がある言葉は、
そうそう無いと思います。例えば「台所」の同義語を調べてみても、
・お勝手
・厨(くりや)
・厨房
・調理場
・炊事場
・板場
…くらいでしょうか。
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ただこれも、「方言」を調べ出すとキリが無くなり、
・走り(京言葉)
・オバンシ(栃木県佐野地方)
・みずや(西日本の古語)
などなど…
例えば「みずや(水屋)」は、元々は茶道の用語で、
その流れから食器をしまう棚を「水屋」と呼ぶようになり、
九州地方を中心に「台所全体」を指すようになった…など、
それぞれ語源を調べるとまた面白いのですが…
今回のテーマからは外れるので(^ ^;
またの機会にでも…(^ ^;
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さて、なぜ「トイレ」を表す言葉は、これほどだくさんあるのでしょうか。
一つには、上記店員同士の「隠語」のところに書いたように、
「人前で堂々と話すのもはばかられる」から、
直接的ではない表現が生まれた、という事情があるようです。
「はばかり」などという言い方は、正にそこから来ていますね。
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間接表現ということで、「用を足した後手を洗うから」お手洗い、
手水場などの呼び方が生まれたようです。
トイレには必ず手洗いが付いていて、多くの場合は鏡があるので、
お化粧を直す → 化粧室など、トイレそのものではなく、
それに付随するものや機能を呼び名にしているパターン。
そう言えば英語でも「パウダールーム」という言い方をしますね。
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「トイレ」を表す英語は
英語と言えば、商業施設や駅・空港などの公共施設などでは、
日本でも英語表記がよくあって、
・TOILET
・WC
・LAVATORY
などを良く目にするのでは?
ただこれ、「国によっては不自然」な表記が含まれているので、
要注意です(^ ^;
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イギリスやオーストラリア、ニュージーランドなどではOKです。
ただしアメリカ英語では「便器そのもの」を指すことが多いので、
”I am going to the toilet.”という言い方は、普通はしないようです。
ちなみに”toilet”の語源は、フランス語の「小さな布」という意味からだとか。
小さな布はハンカチのイメージですが、
この場合はお化粧の時に使う布のことだそうです。
そこから「化粧室」という意味につながり、トイレを指すようになったようです。
ちなみにフランス語でもドイツ語でも、トイレは”toilette”です。
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便器そのものを指す言葉のように見えます。
町中では” baño(浴室)”という表記をよく見るような…
英語で言う”bathroom”と同じなのでしょう。
“servicio”という言い方もありますが、スペルで何となく分かる通り、
元々は「サービス」という意味の言葉。
レストランやバルなどでよく目にします。
ただしスペイン語圏でも、何故か南米では
「トイレ」という意味では使われないとか。
南米で「サービスはどこですか?」と聞いても、
トイレの場所を教えてはくれないようです(^ ^;
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また”WC”は、”Water Closet”の頭文字で、直訳すると「水の小部屋」。
「水洗の便所」を指す言葉で、ややクラシカルな言い回しのようです。
水洗便所がまだ珍しかった時代に「ここのトイレは水洗ですよ」と
自慢げに(?)表示したのが元だとか。
現在では、町中で出会うトイレは大抵水洗式なので、
ことさらに「自慢げに」表記する必要も無くなっているということでしょう。
日本ではまだ時々見かけますが、海外ではあまり目にすることはありません。
では、アメリカでは「トイレ」のことをどう言うのでしょうか。
これは日本でもよく目にしますが、
・bathroom
が一般的なようです。
アメリカの一般家庭では、お風呂とトイレが同じ場所に
あることが多いからと思われます。
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・rest room
・wash room
などを良く目にします。
”rest”は「休む・休憩する」みたいな意味ですが、
”rest room”は休憩所ではなく、トイレ。
”wash room”は、そのまんま「お手洗い」ですね(^ ^
カナダ人はほぼ100% “wash room”を使う、
と聞いたこともあります。
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・powder room
・ladies’ room
などは「化粧室」のイメージですね。
もちろん “men’s room”という言い方もありますが、
何故かあまり目にしないような気がします。
“rest room”以降は、レストランやホテルなどの
公共の場でのトイレの表記です。
また”lavatory”は、公共の場所にあるトイレを指す
一番「丁寧な」表現だとか。
ただし、あまり日常会話には出て来ない印象です。
トイレを表す「サイン」「看板」では目にしますが。
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「トイレに行きたい」は、英語でどう言う?
いろいろと「トイレ」を表す表現を見てきましたが、
では英語で「トイレに行きたい」という場合、
どのように言ったら良いのでしょうか。
もちろん、ストレートに
“I want to go to the bathroom.”
と言っても通じます。
通じますが、ネイティブによれば、これだと
「ものすごく切羽詰まってる人」に聞こえるとか(^ ^;
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せっかくなのでいくつか他の表現もご紹介してみましょう。
トイレ関係は、日本語で「間接表現」が多いという話をしましたが、
英語でも少し気取ったレストランでの会食などでは、
やや遠回しな言い方をしたりします。
まず初めての場所などで、トイレがどこにあるか良く分かっていない場合は、
“May I use the bathroom?”
という言い方が一般的かと思われます。
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日本では良く「トイレをお借りします」と言いますが、
英語では”borrow”とは言いません。
トイレを「使わせて」という感じで、
”use”と言うのが一般的です。
特に”toilet”は便器そのものを指すので、
“May I borrow the toilet?”
と聞くと、便器を引っぺがして持って行くような印象だとか(^ ^;
“Where can I wash my hands?(どこで手を洗えますか)”
なども、間接的でやや上品な印象かも(^ ^
トイレの場所が分かっていて、「ただ行くのみ(?)」の場合は、シンプルに
“Excuse me.”
だけでも大丈夫です。アメリカでは
“I’ll be right back.(すぐ戻る)”などとも言うようです。
レトロな表現で、今ではほぼギャグとして使われますが、
日本語で「トイレに行ってくる」を上品に言うフレーズに
「お花を摘んできます」という言い方があります。
主に女性が使う表現とされ、元々は「登山用語」だったとか。
山登り中に、用を足すために道を外れて草むらに入ってしゃがむ…
という場面が、お花を摘む様に似ているから、とか。
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目的によって「大雉」「小雉」と使い分けるとかいう説も…(^ ^;
鉄砲も持たずに雉撃ちとか、まぁバレバレでしょうが…(^ ^;
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“Nature calls.(自然が呼んでいる)”
と言うものがあります。
勝手なイメージですが、脱サラしてバイクで日本一周とか
している人なんかが「自然がオレを呼んでるぜ!」
とか言いそうですが(^ ^;
そのまま英語で言うと「トイレに行ってくる」
という意味になってしまうので、
世界一周をする際にはご注意ください!?(^ ^;
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終わりに
この原稿を書くに当たって、英語以外の外国語も色々と調べてみました。
その結果、ドイツ語でもフランス語でもイタリア語でも、
「トイレに行く」は「手を洗ってくる」的な表現がよく使われているようです。
「直接的な表現を避ける」気持ちは、万国共通のようです(^ ^
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トイレでなくても、身近なものやこと、何でも「これは英語でどう言うのかな?」
「英語以外の言葉ではどうかな?」「日本以外ではどうしてるのかな?」
と興味を持つようにすると、ご自分の世界がどんどん広がっていくと思います。
現代の日本に住んでいれば、食べ物も飲み物も、洋服も機械も、
ほとんどのものが何らかの形で海外からの輸入品に頼って作られています。
「自分は日本から出るつもりはないから」という方でも、
外国の言葉や事情について知っていることは、決して損になることは無いでしょう。
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このポストをきっかけに、外国の言葉や文化などに興味を持つ方が
一人でもいてくれたら幸いです。
せっかくなら、英語に限らず、ぜひ色々な言葉に興味を持って、あれこれ調べてみてください!(^o^